映画ファーストラヴを観た

島本理生原作「ファーストラヴ」の映画化作品を見てきた。ネタバレあるので閉じます。

原作がとても素晴らしくて大好きな作品なので映画はどうかなぁと思ったけれど、映画も思ったより良かった。だけど、環菜の事件もさることながら、由紀自身の性虐待のトラウマとそこからの回復を描く部分に焦点を当てたストーリーと考えないと、映画での由紀がやってることが専門職としてはアウトで、まずい感じがした。

主人公・真壁由紀の過去が、父親殺しで逮捕された女子大生・環菜の置かれていた状況と重なり合い、環菜の事件が紐解かれていくのと連動して由紀の現在にまで影響を及ぼすのは小説も映画も同じ。小説での由紀は、環菜の前ではあくまでも臨床心理士として専門職に徹していて、内心は動揺したりしながらも淡々と事件の真相へ近づいていくという印象が強かった。だけど、映画では、あからさまに(迦葉にも指摘されるのだけれど)自分の過去のトラウマを環菜に投影して動揺を隠さず、というか感情をコントロールできない由紀がいる。相談援助職の倫理を早々に逸脱して、環菜に心を開いてもらうために「私も心の傷を見せる」と言い、「わたしもこうだった。あなたもそうじゃない?」という誘導をした上、まだ自分のトラウマからの回復が十分でない由紀は環菜の不安定さに呼応するように不安定になり危機的な状況に陥る。

映画は時間が短いからしょうがない部分もあると思うのだけれど、短いスパンで物語が進んでいってしまうので、要所要所で、もうそこ言っちゃうんだ、もうその事実にたどり着いちゃうんだというあっさり感があった。原作の素晴らしい点は、由紀自身のトラウマからのゆるやかな回復と、環菜との(手紙のやり取りも含めた)時間をかけたやりとりの中から、表には大したことないと捉えられてしまう性虐待の被虐待者に与える多面的な影響を説得力を持って描き出していること、そして環菜自身の変化と回復に向けた希望も最後には感じられることだと思う。映画だとその時間をかけた一歩一歩(一進一退?)が一瞬で過ぎていくので、環菜と由紀の関係性があまり深められている感じがなくて、強引に由紀がこじ開けた上に無理に引き出した感じがした。

まぁ言ってしまうと核心の部分が残念ではあったのだけど、北川景子芳根京子の演技は説得力があり、また性虐待のおぞましさはある意味原作よりも強烈で、わたしは苦しくて終始号泣してしまいました。原作未読で映画を見た人はぜひ原作を読んでほしい。

由紀の夫・我聞さんがどれだけいい人なのかは原作を読むとなお沁みると思う。原作の我聞は、写真の才能があり世界に出てフォトジャーナリストになりたいという夢を追っていたけれど、由紀の妊娠を機にその夢は断念して堅実な職につく。映画でも我聞さんはいい人で、由紀の仕事への邁進を支えるべくフォトジャーナリストではなくこじんまりとした写真館をやっているのだけど、映画では由紀夫婦には子どもはいないようだったので、なぜ我聞がそういう選択をしているかは十分読み取れなくて、残念だった。

とここまで書いてきての結論だけど、やっぱりこの作品は映画には向かないかも。映画を観る前に原作を読んでなかったら全然腑に落ちなかった自信がある笑。謎解きという部分に焦点を当てた映画にしてしまうと性虐待とトラウマという主題部分が単なる材料に使われたようにも感じられてしまうと思うので。映画はそこまでの印象はなかったけど、駆け足感は否めなかった。